2019年08月22日

「あゝ決戦航空隊」視聴


唐突ですが映画感想。
あー、ネットには現実とフィクションの区別のつかない基地外がたまにしばしばたくさんいるので強調しておきますが、あくまで 映 画 の感想です。

Amazon:あゝ決戦航空隊 [DVD]
楽天ブックス:あゝ決戦航空隊 [ 鶴田浩二 ]

古い映画ですが。大東亜戦争やとりわけ特攻を扱った映画の中では、数少ない、屈指の傑作の一本。そして実はかなりの問題作でもあるかもしれません。あからさまにパヨパヨした映画ではまったくありませんが、真面目なサヨクというものがもしこの地上に実在するのであれば、本来、このポイントこそつくべきではないかとさえ思える点がなくもない映画。

特攻隊を扱った映画は掃いて捨てるほどありますが、大半は最前線の搭乗員を描いた物語。(ついでにいえば、そのかなりの部分が、「カワイソウ」式の、反戦似非ヘイワ主義のオモチャみたいなものかもしれません)。
一方で、特攻を送りだした側の苦悩を正面切って描いた映画が、本作以外にいかほどあるのか。ほとんど存在しないのではないのでしょうか。
その時点で異色作。
何といっても主人公が「特攻の父(このレッテル自体いろいろ議論の種ですが)」大西瀧次郎中将。
原作は草柳大蔵「特攻の思想―大西滝治郎伝 https://amzn.to/2ZfAFVn」(小説ではなくあくまで評伝、ノンフィクションです。それをドラマ仕立てにしている時点で、半分は映画オリジナルみたいなものかもですが)。
原作自体、おかしな色眼鏡で染め上げることなく映画化すれば、傑作になるのも当然というくらいの名著ですし、実際、かなりの程度、そうなりえているかと……思います。

ちなみに、単行本は知りませんが、原作の文庫版には、本映画で大西中将を演じた俳優の鶴田浩二が解説を書いています。短い文章ですがこれ自体一読の価値ある名文ですから、未読の方はぜひ、というところ。
 自分の国は自分で守れ、と理屈を言うつもりは全くない。だが、自分の国が可愛くないのか、可愛ければどうするんだ、という問いかけはいつも私の胸にある。これは、右翼とか左翼といった次元とは別のことである。あえていえばド真ん中の思想、といっていい。
 特攻のようなことは二度と繰り返されてはならないし、国と国との揉めごとは外交によって解決されなければならないことはいうまでもない。
 ただ、そのことと大西中将が抱懐していた思想を正しく後世に伝えたいということは、別の次元の話である。特攻が良いか、悪いかを論ずるのではなく、国の危難を救うために私たちはそれに足る精神を持ちあわせているのか、を論じたいのである。いや、もっと単純に、国を救うことが悪いことでありえようか、そんな質問を発し続けることが必要な社会なのである。

原作はそういうことでよいのですが。。
しかしながら、この映画のほうは、原作から大きくはみだした部分も持っています。
「問題作」なのはこの部分。

映画では、厚木基地の「叛乱」にかなりの尺を割いているのですが、この部分、原作にはほぼ記述がありません。せいぜい、大西中将が自決の際に「厚木の海軍を抑えてくれ、小園大佐に軽挙をつつしむよう伝えてくれ」と児玉誉士夫に遺言する場面があるくらいです。
しかし映画では、小園大佐と大西中将の交流から、基地航空隊の群像まで、正直、原作を知っている身からすれば脇道にそれすぎとも思えるほどの描写を積み重ねたうえで、玉音放送後も徹底抗戦を主張するいわゆる「厚木航空隊事件」の顛末が描かれます。
Wikipedia:厚木航空隊事件
そしてついには、拘束された小園大佐が、マラリアの熱に浮かされ半狂乱になりつつ、病院の屋根から、はるか皇居におわします昭和天皇に対し奉り、「陛下、あなたは過ちを犯されました」「陛下、あなたはお可哀想な方です」と叫ぶに至ります。

はてさて。

「英霊」の名をタテにとって昭和天皇をなじるといえば、すぐさま、三島由紀夫の「英霊の聲」が浮かびますが(というか、昭和四十八年公開のこの映画、おそらくですが、昭和四十五年の三島事件をあからさまに意識しているのではないかという気もしますが)。
前シテだの後シテだの、姑息な手順を踏んで、わざわざ社会主義者に使嗾された二二六事件の叛徒を持ちだすなど、三島のそれが常にある不純さイカガワシサにつきまとわれているのに対して、余計な手管を弄することもなく、特攻隊の英霊という文字通り異論の余地ない英霊の捨身を背景にどストレートにつきつけられる、「若者に死を命じておきながら、命じた重臣どもはなぜおめおめと生きているのか」という本作の情念には、思考停止の素通りを許さないだけの重みと迫力があります。
「天皇批判」といえば言えますが、だからゴミだ反日だと決めつけず、批判を批判として受け止めたうえで、正面切って、再批判すべきではないでしょうか。小園大佐の絶叫を否定したいのであれば、なおさら、その絶叫がせっかく提供してくれている「思考」の機会を捨てるべきではないのではないでしょうか。

そんなことを考えている矢先、Amazonのカスタマーレビューに、
興味深い点は、この二人を通じて、終盤、昭和天皇の戦争責任論を結構、表に出していることで、この点で意外と先鋭的(?)な主張を含んでおります。簡潔に言えば、天皇が自ら戦列の先頭に立たないと、この戦争は完結しない(既に命を捧げた人間に申し訳が立たない)と。正直、軍人どころか女子供が毎日、焼き殺されている中で、まだ続ける気かよと少し引きましたが…。この様な終戦間際の葛藤を知る上で、他の傑作である「日本のいちばん長い日」(モノクロの旧作の方)と合わせてみるのも面白いです。どちらもDVDを手元に置く価値のある作品です。
内容的にも「日本の一番長い日」とリンクしています。
あの作品では天皇の玉音放送を聞いたあとも武装解除の命令に従わず、独自にアメリカと抗戦しようとした厚木基地の第302航空隊が少し登場しますが、本作では彼らのその後も描かれています。
本作を見るまでは、天皇の命令すら無視して戦争をする彼らを軍国主義が生んだ気狂い達と思っていたのですが、
本作を見て彼らの立場がどういったものだったのかを知ることができました。軍人たちは天皇のためではなく国家のために戦っていたのです。だからこそ作中で度々言及される天皇と、天皇への批判も、重みが出てきます。
などの投稿を見つけましたが……
ここであげられている、どちらかといえば和平派肯定の「日本のいちばん長い日」の原作者が、自虐史観の半藤一利であることの孕むいかがわしさを、あらためて思い起こしてみてもよいかもしれません。
朝日新聞「国難」、自作自演の危機に違和感 半藤一利さんに聞く
日本のこころを探して:
【動画】江崎道朗のネットブリーフィング「今回の解散総選挙で北朝鮮有事を全面に押し出せないワケとは?!」
【動画】特別番組「陰謀論の正体とは?~日本占領と「敗戦革命」の危機」江崎道朗 海上知明 倉山満
これは原作者というより監督の政治性によるのかもしれませんが、上のレビューが評価している「モノクロの旧作の方」には、半狂乱でアジビラを撒く畑中たち決起将校への異常なまでの同情がむしろ目だっているくらいだったのに対して、平成のリメイク版には大西中将がことさらに愚かな特攻基地外のような侮蔑的な描写で登場し、「冷静」な和平派への賛美がむしろ強くなっているようにも思えます。

「特攻の父」大西瀧次郎の苦悩によりそいながら、「御聖断」に、あえて重い問いをつきつける本作と、
同じ大西瀧次郎をサルのような低能に戯画化しながら、「御聖断」を褒めたたえる、リメイク版「日本のいちばん長い日」と、
同じく「御聖断」を褒めたたえる身振りの裏で、宮城事件の逆賊に左翼学生運動的なシンパシーを寄せ、GHQの占領を「ヘイワの鐘」を鳴り響かせてお迎えする旧「日本のいちばん長い日」と……

苦悩しつつも君国のためあえて特攻の断を下した愛国者の論理こそが、昭和天皇に「なぜ」を問いかける点で、左翼的なルサンチマンに接近し……
一方で、かの有名な朝日新聞さまさまがわざわざインタビューを取りにいく種類の戦後知識人の原作が、天皇の御聖断を褒めたたえることで、(実はGHQサマの与えてくださった占領という名のヘイワの前に跪いているのだが、それをカモフラージュして)、自称愛国者の共感を得る。
この「ねじれ」には端的にいって居心地の悪いものを感じざるをえませんし、そのねじれの延長線上にこそ「かくばかり醜き」戦後、「国を救うことが悪いことでありえようか、そんな質問を発し続けることが必要な社会」があるのだとしたら……わりと由々しい問題でもあるような気はするのです。

事が「情念」に類する問題ですから、現実的な解法といっても難しいですし、万人が納得する結論など出しようもないのかもしれませんが……

左翼的とも右翼的とも言えば言え、同時に、言っても仕方がないような、情念的な本作の映像を見るうちに、何というか、うまく言えませんが、国歌「君が代」と準国歌「海行かば」との間にある、微妙なズレを見るような心地さえしてきたのです。(上で引用したレビューにも「軍人たちは天皇のためではなく国家のために戦っていた」という記述がありますが、国家イコール即天皇では「ない」という認識には、かなり危険な陥穽が含まれているように思います)。
ちなみに本作品、公開当時には、「日本映画初の天皇制批判」が云々で左翼から評価されたとの話があるようですが(wiki参照)、Amazonのカスタマーレビューなどでは、むしろ愛国的な情緒を受け取っている人も多いようにも思えます。
だが、大西中将も小園大佐も、非常に心の純粋な方で、日本の必勝を念じ、信じたという点では一緒だったろうと思う。
親兄弟のため国のために命を捧げる 神国と言われる意味だと思います
大東亜戦争は「日本人の魂を護るための戦い」だったことを知りました
当時の日本がどんな状況で戦争の道を選ばざるを得なかったのか他の方にもこの映画を通じて知って欲しいと思いました。
こんなにいい映画とは思いませんでした。日本人の心取り戻した氣がします。
そういう評価の振幅も、安物の政治ごっこや思想ごっこの教条主義に左右されない、「作品」としての力の証明というべきかもしれません?
それこそAmazonには、
ただしアミューズメント性を求めると戦争反対なのか特攻賛美だかわからない中途半端な作品となってしまうので難しいところだと思う。
などという声もありますなw
そもそも、本作品で小園や大西が問うている天皇の「責任」がもしあるとすれば、あくまで戦争をやめた責任(終戦責任)であって、左翼・パヨクがこじつけようとする戦争を始めた責任(開戦責任)ではありませんし、さらに言うなら下手な戦争をやらかした政府・軍部の「敗戦責任」とも違いますしね。。(wikiにある笠原のように、そこを戦争責任の一言でごちゃ混ぜにするのは無理がありますし、わかってやっているならダブスタというべきでしょう)。

何はともあれ、愚劣な上層部と純粋な現場のはざまで誠実に苦悩した大西中将を、正面から描こうとした数少ない(ほとんど唯一?)映画の一本として、大東亜戦争や特攻に関心のある日本人、あるいは関心を持つべき日本人(それはつまりすべての日本人ということのような気もしますが)なら、一見の価値アリ。
本作の描きだす情念に共鳴できるかどうかはさておいて、刺激を受けるくらいのことはできるのではないでしょうか。

Amazon:あゝ決戦航空隊 [DVD]
楽天ブックス:あゝ決戦航空隊 [ 鶴田浩二 ]
Amazon:
特攻の思想―大西滝治郎伝 (文春文庫 (315‐1))
厚木航空隊事件―敗戦悲話 小園安名物語
あゝ厚木航空隊―あるサムライの殉国
日本のいちばん長い日
日本のいちばん長い日 [DVD]
posted by 蘇芳 at 15:38|  L 大東亜戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする