2018年06月29日

【動画】伊勢物語 第八十四段 さらぬ別れ

こちらで書いた通り、「伊勢物語」第七十六段以降、在原業平に擬せられる「昔男」に対しては、「翁」と表記される章段が増えていきます。
本人が年を取れば、周りも自動的に年を取るのは理の当然。
19歳年下の惟喬親王が出家遁世したのはこちらで見た通りですし、幼帝だった清和天皇も譲位あそばし、斎王も帰京され出家されたのはこちらで見た通り。
またこちらで見た章段では、藤原多可幾子が薨じ、政敵(?)だった大臣が四十の賀を迎え、兄・行平には孫が生まれ……という具合。
立場や身分がどうあれ、時間だけは平等に残酷なのかもしれません。
そして……

老いぬればさらぬ別れのありといへば いよいよ見まくほしき君かな
世の中にさらぬ別れのなくもがな 千代もと祈る人の子のため

特に蘊蓄をつけたすほどの必要もないしみじみとした章段。
若かりし日の二条の后の物語などに比べれば、派手さはないかもしれませんが、それなりの有名章段として、外せない挿話ではあるでしょう。
(孝行をしたいときにはナントヤラ。理屈ではなく、年をとるとこういう章段のほうが、はるかに〝沁みる”ようにもなってくるかもしれません)

伊勢物語といえば通俗的な興味はどうしても恋愛方面と政治方面に向かいがちですが。こちらなどでも書いた通り、それでは全百二十五段のうち、わずか十段ほどしか消化できません。
激しい恋愛や政治の季節を過ぎ、傷心の漂泊の時代を越え、伊勢での一連の出来事を経由して、老いのとば口に立ったとき、あらためて見えてくる景色はどのようなものか?
ゆるやかながらあえて「一代記」の形式を選択した、未詳の「作者」の意図というものがもしあるとすれば、それは、(冒頭の数段よりもむしろ)、紆余曲折を経て物語がたどり着いた地点にこそ、より濃厚に反映されていると見るべきではないでしょうか。

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posted by 蘇芳 at 19:42|  L 「伊勢物語」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする