2018年01月12日

【動画】「陸軍の勝算」秋丸機関の真実② 林千勝 (昭和史研究家)偕行社 平成27年11月29日




動画の前半でドイツとの連携について熱っぽく語られていますが。
前回書いた通り、独ソ戦に勝つためにインド洋に行きます、などという「戦略」が、本当に日独間で「完全に一致」していたのでしょうか?

林氏の著書には、
英米と総力戦を戦うドイツにとって、生産力確保のためにはソ連の占領が必須であったこと、しかしながらドイツの対ソ連戦が膠着状態となる可能性があったこと、それがドイツにとり大きなリスクであることが、戦争経済研究班によって事前に十分に研究されていたのです。
とありますが……
(そもそもソ連一国を「占領」するだけでも大仕事でしょうに、それが目的ではなく、対英米戦のための手段にすぎないというのですから、ヒトラーもまたずいぶんと大風呂敷を広げたものですが、それをさておくにしても、)
この時点で米国は欧州大戦に参戦しておらず、国民の8割が参戦に反対しており、そもそもルーズベルト自身が決して参戦しないことを公約に掲げて当選した大統領だったことは、よく知られた事実です。
先んじて武器貸与法は成立したにせよ、それでもまだ米独間に「総力戦」は発生していなかったのではないでしょうか。

ドイツにとってこの時点で第一に解消すべき「大きなリスク」が、まだ始まってさえいない「英米との総力戦」ではなく、それ以前の「対ソ連戦が膠着状態となる可能性」だったのだとすれば……そのソ連に背を向けて英米撃滅を主張する秋丸機関の計画は、この時点のドイツの目に、はたして、どれほど魅力的に映ったでしょうか? 順序が逆、と思われはしなかったでしょうか?
あまつさえ実際の開戦においては、インド洋どころか、日本はいきなり真珠湾に打って出て米国の参戦を招いたわけですから、「話が違う」にもほどがあります。

「対ソ連戦が膠着状態となる」「大きなリスク」をそのままに、ドイツをして「英米と総力戦を戦う」はめに追いやった直接の原因こそ、まさに日本のこの一挙だったのだとしたら……
とうていドイツと連携が取れていたように思えないのは、私だけでしょうか?

そういう疑問を持つのは何も私だけではなく、当の動画のコメント欄には、
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などの投稿がありますし、
Amazonには、
「例えば、著者は、インド洋方面の作戦を完遂しイギリスのインド・オーストラリア方面からの補給線を遮断するという、陸軍の作戦を高く評価されています。しかしこれには当然、陸海軍間の十分な摺り合わせが必要なことであり、それがなされていないのは、重大な瑕疵と言わざるをえないと考えます。またこの作戦が成果をあげる為には、ドイツ・イタリアとの共同作戦の必要があると考えますが、開戦にあたって陸軍は同盟国と作戦のアウトラインを共有していたでしょうか?」とのレビュー
もあるようです。

それ自体が洗脳だ、というなら、まあ、そうなのかもしれませんが。。。

秋丸機関の計画がどれほど「立派」で「合理的」で「科学的」だったとしても、実現できなければ絵に描いた餅です。
そして、実現できなかったのは海軍のせいだ、と、非難してみたところで、後の祭りでしょう。
実現のために海軍や同盟国を説得する必要がありながら、それができていなかったのなら、その時点で見通しが甘かったというべきではないでしょうか。
それを「海軍が悪い」ですませてしまっては、「陸軍の暴走」という通説を、「海軍の暴走」に置き換えただけの不毛に終始するようにさえ思われます。

山本五十六愚将論、あるいはスパイ説、というのは今に始まったことではなく、真珠湾攻撃を批判する論は過去に何度も提出されていますし、そのなかのいくつかはインド洋での作戦こそが必要だったと主張してもいたと思います。
林氏の言う通り、あるいはそれは「定石」でさえあるのかもしれません。
しかし、だとするなら、なおさら疑問です。
それが「定石」であるというのなら、「定石」を「定石」通りに実行すればよいという、それだけの〝簡単なお仕事”を、栄えある帝国陸海軍ともあろうものが、なぜ完遂することができなかったのか?
戦争というものは計画通りにはいかない、という東條の言葉を、林氏は高く評価されているようですが、それならばなおのこと、当の東條内閣の戦争指導がそのまま総力戦研究所の予想どおりの結果を実現してしまったのはなぜなのか?

秋丸機関はエライ!と言っているだけでは解けない謎が、かえって増えていくようにも思えます。
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posted by 蘇芳 at 21:13| 大東亜戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする