2018年01月11日

【動画】「陸軍の勝算」秋丸機関の真実① 林千勝 偕行社 平成27年11月29日


こちらで提起されていた通り、大東亜戦争が本来「対英戦争」であり、米国などはお呼びでなかったとするならば、本来の主戦場たるべきは太平洋などではなくインド洋であり東南アジアであったでしょう。実際の歴史において、その方面で(大)活躍し、植民地解放の原動力となったのは、帝国陸軍だったのではなかったでしょうか。
「太平洋戦争」史観、「日米戦争」史観、そこから派生する「海軍善玉論」は、あの大戦の対英戦争としての性格を隠蔽すると同時に(あるいは隠蔽する「ことによって」)、そうした陸軍の役割をも隠蔽してきたように思います。
つまるところ、「対英戦争」としての大東亜戦争を考えるなら、「帝国陸軍の大東亜戦争」を考える必要があるのではないでしょうか。
ということで、以下は「日米開戦 陸軍の勝算 (祥伝社新書)」の著者・林千勝氏による秋丸機関についての講演動画。3回シリーズの1回目。「陸軍の勝算」はそのまま鵜呑みにするのではなく、当然、きっちり検証しなければならないことではありますが、興味深い主題ではあるでしょう。



最初に言っておきますが、私個人としては、秋丸機関の計画は、所詮、絵に描いた餅にすぎなかったし、それは事前に予想もできたのではないかと思っています。(むろん、新しい判断材料さえ提示されれば、いつでも掌を反す用意はしておきますがw)
一言で言えば、この計画、他人の褌をアテにしすぎです。しかもその「他人」というのは何者だったでしょう? 素直に褌を貸してくれるような輩だったでしょうか?

秋丸機関の計画の成否は、帝国海軍とドイツ軍が、陸軍の計画通りに動いてくれるかどうかにかかっています。もっというなら、この計画、陸軍の作戦遂行のために、帝国海軍とドイツ軍が全面的に「奉仕」することが前提になっているといってもよいかもしれません。

しかし……

1.独ソ戦を遂行中のドイツにしてみれば、日本に対しては北進してソ連を挟撃することこそを求めてくるのが自然であることは、林氏自身が著書の中で書いています。秋丸機関の計画は、そのドイツに対して、何の見返りも提示することなく、北進どころか南進の手伝いをしろと要求するものです。どうやってドイツを「説得」するつもりだったのでしょう?

2.帝国陸軍の最大の仮想敵は帝国海軍、と言っていたのは倉山満だったと思いますが。それは冗談としても、帝国海軍が、予算獲得競争(と面子)のために対戦争を主張していたことは事実でしょう。その海軍の根本認識を愚論として100%完全に退け、陸軍の主張する対戦争の手伝いをしろ、太平洋とかバカなことを言っている暇があるなら陸軍様の言う通り黙ってインド洋に来い、というのが、秋丸機関の計画が暗に要求するところ。海軍が素直に言うことを聞くわけがありません。同床異夢もいいところです。

秋丸機関の計画は確かに一見「合理的」に見えます。
特に「経済的合理性」に基づいているように見えます。
しかし、経済学全般、特に行動主義経済学(をわずかにかじった程度の半可通)的によく言われることですが、経済の担い手である人間自身は、必ずしも常に合理的に行動するとは限りません。(常に非合理でもないですが)

秋丸機関の経済学が「合理」的であればあるほど、アーリア人の差別意識や、陸海軍の意地だの面子だのという、「しようもない」「下らない」、「非合理」なファクターが取りこぼされていく。秋丸機関の経済学が「合理」的であればあるほど、必ずしも合理的ではない「現実」から遊離していく。結果、「理屈」倒れに終わるのではないでしょうか。(「常識の反対は理屈」by倉山満)

しかもこの当時の「経済学」といえば、(動画でも企画院や統制派や有沢広巳の名前が登場するように)、事実上、マルクス主義のそれであり、表面の幻惑的な華麗さにかかわらず、根本のところでどうしようもなく砂上楼閣であった可能性も否定できないように思います。
ちなみに、林氏自身、「確証がないゆえに日頃あまり口にしない」と前置きしながらですが、「有沢広巳の目的は、帝国陸軍が開戦に動くようにそそのかすこと、陛下にもご納得いただける開戦のためのりっぱな口実、建付けを帝国陸軍に与えることであったのではないだろうか、という疑惑」を捨てきれないでいることを、前掲書のあとがきに記しています。
「合理的」で「完璧」であるはずの陸軍の計画は、研究者自身にすら、そうしたある種の「うすら寒さ」を感じさせずにおかないものなのかもしれません。今回の動画シリーズの視聴にあたっては、そのことも、頭の隅に置いておいたほうがよいかもしれません。

それでも、なお、陸軍は陸軍なりに開戦前に勝利のための見通しを立てようとしていたこと――秋丸機関の存在やその計画自体は、もっと知られてよい事実であるように思います。
その計画の「合理性」や、それを壊した山本たち海軍の「非合理性」、そして有沢広巳の真意に関する疑惑などは、まず、事実そのものを知った上で考察すべきなのでしょう。
まずはあと2回分、順次、動画を見ておこうと思います。
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posted by 蘇芳 at 20:37| 大東亜戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする