2017年08月25日

【動画】特別番組「コミンテルンの謀略と日本の敗戦~第4回 世界を壊したウッドロウ・ウィルソン」江崎道朗 倉山満


チャンネルくららから。


動画概要:
2017/08/20 に公開
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コミンテルンの謀略と日本の敗戦 (PHP新書)
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●ウッドロウ・ウィルソンの作った第一次大戦後の世界秩序が、その後、レーニンや毛沢東を生み出していく・・

ウィルソンがまき散らした害悪については、倉山氏も常々言及しています。まあ、動画だと具体性が無い罵倒に終始して何が言いたいのかわかりにくいことも多いですし、著書は著書で、低俗な意味で面白いことを言おうとしすぎてかえってアレになっているような気がしないでもないですが。もちろん、それなりに書くべきことは書いてあるようです。
ここでウィルソンは有名な「十四カ条」を宣言します。その主な内容は、「秘密外交の廃止」「航海の自由」「民族自決」「バルカン半島と中東の新秩序構築」です。日本人はこれだけ聞くと何が問題なのだろう、と思うでしょう。ところが当時の世界の人々にとっては、これは綺麗事どころか紛争要因だと一目でわかる危険な内容なのです。
第一に「秘密外交の廃止」とは、大戦中に英仏伊日など主要国が結んだ約束を全部チャラにして、アメリカの要求に従って一から話し合いをやり直せという意味です。
第二に「航海の自由」とは、七つの海を支配する大英帝国の縄張りをアメリカは無視して自由に航海させろとの意味です。ついでに海軍大国である日本への挑戦状でもあります。
第三に、「民族自決」とは、それまで世界中の「帝国」において少数民族として扱われてきた人々に、その意思と能力があるのなら主権国家を持たせよう、という意味です。
しかし、自分のことを自分で決めるというのは言葉は格好いいのですが、その「能力」はどのように判定するのでしょうか。武力しかありません。少数民族として弾圧されるのが嫌なら、自力で武器を持って立ち上がれ、勝てば国として認めてやる、ということになります。
大日本帝国では台湾人はこれを無視しましたが、朝鮮人が本気にして呼応し、三・一独立運動を起こします。
ウィルソンの支援に勇気を得た中華ナショナリズム民族主義者は日本や英国などに見境なく喧嘩を売り始めます。世界中に植民地を抱える英国などは対応で必死になり、かえって民族弾圧を強めたりします。ウィルソンの主張は大英帝国の覇権に挑戦状をたたきつけ、ついでに日本にも喧嘩を売るという、危険な内容だったのです。
第四に、「バルカン半島と中東の新秩序構築」とは、「ハプスブルグ帝国は八つ裂き」「オスマン・トルコ帝国は抹殺」の意です。この両国から二十もの国が独立していきました。現在ではこの両国の旧版図に五十もの国がひしめきあっています。
結局、ウィルソンの綺麗事は世界中の過激派を狂喜乱舞させただけでした。
極めつきが、ソ連邦の出現です。

ただ、上の引用はあくまで「日米」近現代史であるためか、「ソ連邦の出現」についても、レーニンの具体的行動よりはウィルソンがそれを側面支援したことに力点が置かれているようで。結果、やや抽象的な記述になっている気がしないでもないですが……
江崎氏の新著は、そのようなウィルソン主義に、レーニンという「過激派」がいかに「狂喜乱舞」したかを筋道立てて追いかける内容になっており、両書を併読すれば、具体性と説得力も倍増するのではないかと思われます。
 また、ウィルソンによる「大英帝国解体」の目論見も、レーニンの思惑にぴったり合っていた。
 アジア・アフリカの植民地が反乱を起こして大英帝国が解体されて経済的に困窮すれば、イギリスでも必ず革命が起こるだろう。アメリカのウィルソン大統領がイギリスを目の敵にして、この二つの大きな資本主義国が争いあってくれることは、まさにレーニンの望むとおりだった。
 レーニンはあたかもウィルソン大統領と密に連絡しているかのように、英露協商を破棄した。その結果、イギリス領インド帝国の北西辺境州は、ロシアの軍事的脅威に曝されることになった。
とかなんとか。。。

ちなみにここでいう「英露協商」というのは、こちらなどで述べた日露戦争の成果≒「ドイツ包囲網」の一画でもあります。
wiki:三国協商
米国が日英両国に喧嘩を売り、レーニンがそれに便乗して、日本が血で贖った成果であるところのドイツ包囲網を、よりにもよってドイツとの戦争中に破壊した。わけで。普通に考えれば、英国はもちろん、日本だって激怒して良い場面です。
当時、第一次大戦に積極的に関与して同盟国・英国を助けろと最も強硬に主張した日本の外交官が石井菊次郎ですが……米ソが日英に喧嘩を売っているという上の構図に気づけば、それも当然の発想だったということになるかもしれません。
石井はまた、石井・ランシング協定を結んで日本の権益を守り抜くなど、米国とも対等に渡り合ったらしく、倉山氏が高く評価するのもうなずけるというものですが……
海軍はまだしも、陸軍の出兵は拒否され、米国というトンビに油揚げをかっさらわれたことをはじめ、当時の日本には、どうにも石井の発想についていける人材が少なかったのかもしれません。

そしてその石井菊次郎もまもなく退場。

肝心の日英同盟も外相内田康哉と外務次官幣原喜重郎の無能コンビによってあっさり破棄されるのは周知の事実。
wikiソースなので話半分ですが、泣きたいのは英国のほう。英外相バルフォアは、
20年も維持し、その間二回の大戦に耐えた日英同盟を破棄することは、たとえそれが不要の物になったとしても忍び難いものがある。だがこれを存続すればアメリカから誤解を受け、これを破棄すれば日本から誤解を受ける。この進退困難を切り抜けるには、太平洋に関係のある大国全てを含んだ協定に代えるしかなかった
と述懐したとかしなかったとか。

このあと、第二次大戦に至る戦間期には、英国側から関係修復の呼びかけなどもあり、有名なリットン報告なども事実上は日本に好意的な内容だったのは、今ではだいぶ認知されているでしょう。
一時はカール・カワカミのような言論人が日本擁護の論陣を張ったりしたのも英国でのことです(K.カール カワカミ「シナ大陸の真相―1931‐1938」)。
しかし、石井のような有能な外交家を切り捨て、江崎氏が本書で描きだすように社会主義化していく日本には、英国の送るサイン・シグナルに気づく余地すらなく(それに気づけるようなまともな人間は一線から排除され)、ついには日本自身が英国(やオランダや米国)の「植民地」を「解放」する「聖戦」に乗り出すのですから、英国側からすれば泣きっ面に蜂でしょう。
日本自身が大アジア主義の理想を文字通りの意味で主体的に貫徹していたのならまだしも、こちらなどでも疑義を提出しておいたように、その「理想」が共産主義の「野望」に汚染され、利用されたのだとしたら、日本自身にとっても目も当てられません。

なぜそうなったのか?

共産主義はもちろん、アジア主義の問題も、見逃せないところ。
本書に登場する人名を手掛かりに彼らの著書を追いかけてみるだけでも、新しい展望が開けるかもしれません? 
何にせよ、くりかえしますが必読の一冊かと。
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Amazon:
嘘だらけの日米近現代史 (扶桑社新書)
シナ大陸の真相―1931‐1938
外交随想 石井菊次郎
外交余録 石井菊次郎 (呉PASS復刻選書15)

追記:
記事本文で書く余力がなくなりましたが、
動画に登場した上杉慎吉については、当ブログでもこちらこちらこちらこちら、またこちらなどでも否定的に言及してきました。
天皇を専制君主・独裁者と認定し、政治的責任者に仕立て上げる上杉説は、明治憲法の掲げる天皇無答責の大原則を真っ向から否定するものです。それは天皇の戦争責任という戦後左翼の虚偽とこそ圧倒的に親和性の高いデマゴギーだということは、何度でもくりかえし確認しておく必要があるでしょう。
明治憲法体制下における天皇の位置づけについては、一見愛国的に偽装した書籍においてさえ、意図的か無意図的かは不明ながら、あからさまな誤解・曲解・嘘八百がいまだにまかり通っていますので、なおさらです。(つい先日「秘蔵写真で見る 若き日の今上天皇」を入手。珍しく「大東亜戦争」呼称を使っているムックでしたが、同時に、戦前の「主権」は天皇にあったと平然と書いてあるのには呆れました。井上毅にアヤマレ)