2017年03月28日

石の永遠


こちらの婚姻譚の裏でひっそりと語られるのが、木花咲耶姫の姉・磐長姫(石長比売)の悲話ですね。
ひむか神話街道:50の物語集 神話編 ≫ 第16話 イワナガヒメと鏡
イワナガヒメかわいそう、というのは置いておいて、この物語は「寿命」の起源説話でもあり、「バナナ型説話」の変種であるとも言われているようです。
wiki:バナナ型神話
説話・伝承が、地域から地域へ伝播していくものなのか、似通った風土・似通った精神生活を営む異なる地域で別個に同時多発するものなのかは、にわかには決めかねますが……
宮崎の神話伝承―その舞台55ガイド (みやざき文庫 44)」などによると、磐長姫神話の源流はインドネシア・セレベス島であり、南九州の隼人族はインドネシア系だった、とする見解などもあるようです。
あるいは、そうなのかもしれません。

そうした類似はもちろん興味深いことですが、しかし同時に、相違についても見落とさないようにはしたいところ。
この事例では、石とバナナの対比が、日本においては、石と花(木)の対比に替えられています。

高千穂神社の後藤俊彦宮司は「神と神楽の森に生きる」で、この石と木(花)の対比を、
日本人は、その頃から石造建築のように永遠に続くものよりも、ある意味で儚い美しさを選んだのではないでしょうか。いわゆる石造文明に対する「木(=生)」の文明です。
日本人は儚く、潔く散っていく桜の花につかの間の美しさと清らかさを感じ、「もののあはれ」を感じとってきました。
同じような意味で、日本の建築物は木や竹や紙でつくられている。二〇年、三〇年経つとまたつくり替えて、新しいものが構築され、そこからまた永遠が続いていきます。しかし、ヨーロッパの建築物は石造建築で、今でも三〇〇年、四〇〇年前の建築物が立派に使用されています。
ところが、日本人はそういう永遠を好まなかったんです。伊勢神宮のように、二〇年ごとに新しく建て替えて、常に新鮮な甦りを重視してきたわけです。
と、解釈しています。

数年前の「遷宮イヤー」の機会に、式年遷宮・式年造替の考え方もあちこちで取り上げられ、「常若」の思想についても伊勢神宮自身の広報でしばしば語られていたように思います。
それを踏まえたうえでなら、後藤宮司の見解にも、なるほどと思わせるものがあるのではないでしょうか。

長持ちするはずの石で作られたギリシャの神殿は廃墟となったというのに、その一方、わずか数十年で建て替えなければならない日本の神社は今もなお日々の祈りの庭として生きつづけている、というのも、皮肉といえば皮肉でしょう。
瓊瓊杵尊は、スタティックな石の永遠ではなく、咲いては散り散っては咲く、活動的な生命の永続を選んだのだ、という積極的な解釈には、日本文化の良い部分に注目しそれを伸ばしていこうとするような、前向きな魅力が感じられます。

まあ、それはそれで、「物語」として見れば、磐長姫がいよいよ報われませんが……

異なる複数の解釈が可能であることこそ、「名作」の条件であるとするなら、民族の精神の精華ともいうべき神話・伝承の類にも、さまざまな解釈がありうることは言うまでもないでしょう。
磐長姫の物語も、「表面的な美醜にとらわれことによる失敗」と、文字通りに受け取っておくほうが、素直ではあり、十分に有意義でもあるのかもしれません。

木花開耶姫は浅間大社をはじめとする数々の神社の御祭神として有名ですが、姉の磐長姫もまた、米良神社、銀鏡神社など、いくつかの神社の御祭神として祀られていると言います。
磐長姫の体現される価値、木花開耶姫の体現される価値、それぞれにそれぞれの役割や意味があり、場面場面での優先順位はあったとしても、絶対的な優劣があるわけではない、とすれば……二者択一を突き詰めない、そうした「ほどのよさ」もまた、日本的といえば日本的なのかもしれません。
「いいかげん」は、本来、「良いかげん」ですから。。。

動画概要:
2016/01/24 に公開
言い伝えられる姉妹の神の神話は人々に学びを与えてくれます。

磐長姫の生命力との木花開耶姫の美しさ、人々に伝わる姫たちの神話

宮崎県の西部にある西米良村は、面積の96%が山林の美しい村です。この村の米良神社のご祭神は、大山祇命とその長女である磐長姫。磐長姫は、自分の容姿の醜さを嘆き、米良神社の下の小川川に身を投げたと言われています。その小川川の上流で、磐長姫が作った米がとてもおいしかったことから、この地を米良しと書いて「米良」と呼ぶようになったそう。年に一度の磐長姫のお祭りは、集落が一致団結する機会でもあり、磐長姫は村の大切な祭神です。
一方、県の中央部にある西都市。日本最大級の古墳群が1000年の時を超えて広がります。この地には、磐長姫の妹・木花開耶姫をご祭神とする都萬神社があります。天照大神の孫であるニニギノミコトが、余りの美しさに結婚を申し出たと伝わるなど、姫の残した伝説が縁結び、安産、子育ての神として多くの女性に共感を呼んでいます。今も伝わる姉妹の姫の神話から、多くのことを感じ学ぶことができます。

Present by 宮崎県(制作2016年1月公開)

神と神楽の森に生きる
宮崎の神話伝承―その舞台55ガイド (みやざき文庫 44)
ラベル:日向 古事記 神道
posted by 蘇芳 at 14:37|  L 「古事記」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする