こちらで触れたように、奈良県には、「大和」の「国」の「魂」という御神名をお持ちになる神様が鎮座されています。
創祀の由来は崇神天皇の御代にさかのぼり、当初は天皇と「同床共殿」で祀られていたというのですから、伊勢神宮と「同格」ともいうべき大神様でもあったのではないでしょうか。
皇祖神と「同格」でしかも「大和」の「国」の「魂」というのですから、本来ならこの倭大国魂神こそが、大和地方の国津神・地祇の頂点であってもおかしくないように思われますが……
しかし、大和国一宮はといえば、あくまで、大和神社ではなく大神神社です。
創祀の物語からしてすでに大神神社のほうが主役でもありました。
さて、では、その大神神社の御祭神・大物主神とは、どのような神様かといえば……
実は元々の素性はよくわからないようにも思います。
伊勢神宮の「素性」は言うまでもないでしょう。
出雲大社の「素性」も、素戔嗚尊の子孫、と、記紀の物語で明かされ、少なくとも位置付けられています。
伊勢と出雲はいわば「親戚筋」です。
これに対して、三輪山の大物主神は、そもそものルーツをたどっても、高天原には行きつきませんし、そもそも最初から三輪山の神様だったわけでさえないことにもなりかねません。
国造りのパートナー・少名毘古那命を失った大国主命のもとへ、突然、どこからともなく「来訪」したのが、大物主神です(大物主神が三輪山に鎮座されたのは、大国主命の新しいパートナーとなってからの話?)。
大国主命自身の「幸魂・奇魂」であるという説明も、どうにもこじつけめいてわかりにくいですし、「紀」にはあっても「記」には?というところ。
他にも異伝・異説はいろいろあるのでしょうが、記紀の本筋において、大物主神が元々は外部からの「来訪者」として描かれていることは間違いないのではないでしょうか。
「幸魂・奇魂」云々にしても、その後の数々の異類婚姻譚にしても、その「来訪者」を祭祀の体系の中にとりこみ、「身内」化していくためにあとから操作されたもの、と、考えたほうが自然であるように思います。
(ちなみに、天孫降臨に先立って、天照大神は何柱かの神々を使者として出雲に送り込んでおいでになりますが、そのことごとくが、大国主命に通じて、高天原を裏切ったことになっています。大国主命という神様は、「来訪者」を迎え入れ、味方につける、手腕や魅力を兼ね備えた神サマだったのかもしれません)
この「来訪者」が(国譲りにおける「臣下」としての貢献は別にして)大和朝廷と特別の深い関係を持つにいたる、特に大きな画期は、初代神武天皇の御代、
大物主神の娘・比売多多良伊須気余理比売(媛蹈鞴五十鈴媛命)が、天皇の后となられたときでしょう。
伊勢と出雲が「血縁」において「親戚筋」であるならば、伊勢と三輪山は「姻戚」において「親戚」であることになります。
後世の言葉で言うなら、大物主神は、二代綏靖天皇の「外祖父」になられた、というところでしょうか。
裏を返せば、大物主神は、皇室にとって、あくまでも「外戚」にすぎない、とも言って言えないことはありません。
「外戚」といえば後世の藤原氏が真っ先に頭に浮かびますが……「書紀」において、国譲りのさいに大物主神が事代主命とともに率先して高天原に服属したとされているように、その立場は本来は「臣下」のそれであるはずではないでしょうか。
にもかかわらず、そのような「外戚」の神が、崇神天皇の御代に、「同床共殿」(天照大神と同格)だった倭大国魂神を凌ぐ、より以上の尊崇を受けるようになった、ということのなかには、単なる政治的都合だけにとどまらない、深い意味がありそうにも思えます。
長浜浩明氏が言うように、媛蹈鞴五十鈴媛命との婚姻が、皇室と、大和地方の製鉄文化との融和を意味していたとするならば、三輪山の祭祀もまた製鉄技術集団との関係でとらえる必要があるのかもしれませんし、
古代史探訪:播磨国と大和国の製鉄そもそも倭大国魂神と大物主神は実は同一の神様だ、と、考えることもできるかもしれません。
何にせよ、「来訪者」であり「外戚」でもある初代皇后の祖先神を、天皇の祖先神とともに篤く崇敬された皇室の歴史には、諸豪族との姻戚関係を通じて平和裏に勢力を拡大されていった初期御歴代天皇の大御心が垣間見えるようにも思えるのですが……これはさすがに愛国者一流の牽強付会というべきでしょうか?
動画概要:
2011/06/09 にアップロード
大己貴神が自らの和魂(幸魂・奇魂)を三輪山にお鎮めになり、大物主神の御名をもってお祀りされたのがはじまりとされています。本殿を設けず拝殿の奥にある三ツ鳥居を通し三輪山を拝するという、原初の神祀りの様が伝えられており、我が国最古の神社とされています。
御祭神:大物主神(オオモノヌシカミ)
住所:奈良県桜井市三輪1422
参拝日:平成23年6月3日
大和国一之宮三輪明神大神神社
http://www.oomiwa.or.jp/
三輪山の大物主神さま
大神神社 (日本の古社)
大神神社<第三版>
国民のための日本建国史 すっきり分かる日本の国のはじまりと成り立ち