2016年03月03日

百済仏教殺人事件


皇紀1212年(西暦552年)、百済が仏像、経典、仏教信仰の功徳を説く上表文を朝廷に献上しました。
これが蘇我vs物部・中臣の対立をもたらしたことはよく知られています。
どちらとも決しかねられた欽明天皇はこれら仏像等を蘇我稲目に授けられ、試しに個人的に礼拝してみよとお命じになります。
すなわちこの時点での仏教はあくまで一豪族・蘇我氏の私的信仰にすぎませんでした。
この仏教がやがて悪性ウイルスのように諸豪族に広まり天皇に取り入り、ついには一種の「国家仏教」と化していくわけですが。
その国家仏教≒仏教の国家管理の最初の試みがいつの御代で、そのきっかけが何だったか、といえば、推古天皇の御代。事の起こりは何と「殺人事件」でした。

皇紀1284年(推古天皇32年)4月3日、一人の僧侶が斧で祖父を撲殺しました。
天皇は蘇我馬子を召し出し、出家者は三宝を尊び戒律を守って云々という話なのになぜこういう悪逆の罪をおかすのか、究明し処罰せよ、と、お命じになります。
この取り調べに対して、百済僧・観勒が上表した仏教サイドの弁明は、ふるっています。
仏法の教えは印度より漢に伝えられ、三百年を経て、百済国に伝わりましたが、まだ僅か百年であります。百済王は日本の天皇の英明であられることを聞いて、仏像や仏典をたてまつりましたが、まだ百年にもなりませぬ。このような時、僧尼は、まだ法律にもなれていないので、たやすく悪逆の罪を犯します。(宇治谷孟訳)
「仏教信仰の功徳を説く上表文」とともに奉っておきながら、仏教信者は「100年たってもたやすく犯罪を犯します」とは、おそれいった厚顔無恥な開き直りです。
女帝もさぞかし呆れられたことでしょう。
同月13日、「道を修める人も、法を犯すことがある。これでは何によって俗人に教えられようか。今後、僧正・僧都などを任命して、僧尼を統べることとする」と、詔されます。
これが国家による仏教の管理・統制・監督の最初の試みであり、その目的は「犯罪取り締まり」だったわけです。

推古天皇は仏教を信仰する蘇我馬子の姪であると同時に、仏教をお嫌いになった敏達天皇の皇后でもあらせられました。
すでに事件に先立つ皇紀1267年には「神祇の祭祀を怠ってはならない」旨も詔されています。

仏教と、それを奉じて国政をほしいままにする蘇我氏に対して、このころの女帝は、どのように思召しだったでしょうか。
上の殺人事件の半年後、女帝は、馬子の要求した葛城県の支配圏の割譲を、すげなく却下されています。
蘇我氏の血をひく天皇を立てた馬子の目論見も、雲行きが怪しくなっていったようです。

このときの仏教統制は、皇紀1340年(天武天皇9年)、「およそ諸寺は、今後、国の大寺二、三を除いて、その他は官司の管理をやめる」と詔されるまで、つづいたようです。
だからといって仏教との縁がそうそう切れたわけではなく、早くも皇紀1343年三月には僧正・僧都・律師の位が設けられ、「僧尼令」にしたがって僧尼を統べ治めよと詔されています。
結局のところ、法律で取り締まらなければ、どうにもならない集団が、当時の仏教だったのかもしれません。
(天智天皇~天武天皇の御代は、半島の戦乱を逃れた僧俗の難民・移民も多かった時代です)

その後も、聖武天皇の御代には売僧・玄昉が、孝謙・称徳天皇の御代には逆賊・道鏡が、世俗の権力をほしいままにするなど、「たやすく悪逆の罪を犯」す仏教の性根は、なかなか治らなかったように思えます。
平安遷都を成し遂げられた桓武天皇は、その御治世を通して、何度も何度も、くりかえし、僧尼を叱責し、法を順守せよとの詔を渙発されています。神職に対するお叱りとは、比較するのもばかばかしいくらい、その頻度の差は歴然です。

その後も、仏教の流行をみた平安貴族は没落し、「入道」相国によって一時代を築いた平家は諸行無常の鐘の音と共に滅亡し、鎌倉仏教の興隆は北条氏の専横と共に在り、元寇の侵略軍を滅ぼした神風は決して「仏風」と観念されることはなく、東山文化を築いた足利はやがて応仁の乱と戦国乱世の「苦界」を現出し……と、どうにも仏教の流行した時代にはロクなことがないような気がしないこともありません。その方が布教には都合がよかったのかもしれませんが。
結局、そんな乱世を統一し、「苦界」を終わらせ、太平の世を開いたのが、伊勢・熱田の神宮に寄進をする一方、高野山・比叡山・本願寺・一向一揆などの仏教勢力と干戈を交えた信長であり、キリスト教の侵略に厳しく臨んだ秀吉であり、ついには神社に祀られた「神君」家康であったことは……大した偶然というか、いずれ神道贔屓の私の単なる牽強付会にすぎないとは思いますが、だからといって、外来カルトへの警戒の念を抱くなというのも、無理な注文と感じざるをえないところです。
日本書紀(下)全現代語訳 (講談社学術文庫)
歴代天皇で読む 日本の正史
戦争と共産主義 (呉PASS復刻選書12)
韓国呪術と反日 (SEIRINDO BOOKS)
ラベル:仏教 日本書紀
posted by 蘇芳 at 02:04| 仏教 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする