2016年02月25日

【読書】平間洋一「日英同盟」

 

本の感想?紹介?です。

日英同盟 同盟の選択と国家の盛衰 (角川ソフィア文庫)

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1995年、ヴェノナ文書の公開と、中川八洋らによる近衛文麿の正体の再検討、またロシア側のミトロヒン文書、GRU文書などもあって、大東亜戦争がスターリン・共産主義者の謀略によって生起したことは徐々に明らかになり、その事実は人口にも膾炙しつつあります。

しかし、ソ連につけこまれるのには、つけこまれるだけの「隙」が、日米両国をはじめ、各国にあったはずではないでしょうか。

欧米においてそれは優越種たる白人が他人種を支配すべきであるとするキリスト教的・人種差別的「道徳」であり、日本においてはそれら人種差別に対抗すべく有色人種の連合を構想したアジア主義~大アジア主義ではなかったでしょうか。

それらの潮流がいかに生起し、隆昌し、そしていかに利用されたのか、大東亜戦争、支那事変、満州事変よりさらにさかのぼって追求しておくことは、必要不可欠であるように思います。
なぜなら、俗に言う米国の親日から反日への急旋回をもたらした時代、欧米の人種差別が明確に日本を対象に牙を向きはじめた時代(日露戦争以後)とは、日英同盟とその破綻の時代でもあるからです。
現在、日米同盟の離間を目論んで展開されている内外の反日プロパガンダを鑑みれば、これはすこぶる今日的な意義をもった問題であり、多くの教訓を学びうる歴史なのではないでしょうか。

本書は日英同盟結成前夜からその解消に至る過程を丹念に検討し、日米同盟、日本の安全保障についての展望へと結びつける好著です。
それは明治・大正・昭和初期の国際関係を視野に納めた通史のようでもあります。

日本が日英同盟を結んで戦った戦争には日露戦争と第一次大戦があります。

言うまでもないことですが、日清戦争のときにはまだ同盟は結成されていませんし、アヘン戦争以来支那を食い物にしていた英国が日本の影響力増大を喜ぶ理由もなく、当初は支那寄りでした(有名な高陞号事件のさい、清国兵を輸送していたのは英国商船)。
しかし日本が連戦連勝をつづけるうち、英国の態度は変化していきます。三国干渉に英国は参加していませんし、やがて起きる義和団事件・北清事変における日本の活躍を見て、英国の権益を脅かすロシアのアジア進出に対抗しうるパートナーとして、ついに日本を選択するに至ります。
日露戦争では直接参戦こそなかったものの、バルチック艦隊への妨害行為や情報提供など、英国が多大な恩恵をもたらし、伊藤博文をして「トモダチというのは良いものだ」と言わしめた、というところまでは、よく知られていると思います。

しかし、日本近現代史の悪弊は、第一次大戦・大正時代の無視・軽視・歪曲・隠蔽です。曲学阿世の売国左翼のみならず、自称保守の文筆家にさえ、一部には、第一次大戦を無視して、大東亜戦争の戦犯を小村寿太郎だと言いだす人までいるくらいです(若狭和朋「昭和の大戦と東京裁判の時代 (日本人に知られては困る歴史)」などはその好例か。
一応言っておくと、小村寿太郎は桂・ハリマン仮協定には反対しましたが、それはすでに米国滞在中にモルガンとの内約ができていたからです。米国においては万能の「ユダヤ人」なる便利な存在が絶対権力を握っているという仮説を受け入れでもしないかぎり、ハリマンを米国の総意の代弁者と即断するのも不可解です。上の若狭氏は、「ユダヤ人」がソ連を作り、「ユダヤ人」が米国を牛耳っていると主張しますが、「ユダヤ人」がそんな生物だというなら、その「ユダヤ人」であるハリマンを満州に導き入れることこそ、危険極まりないのではないでしょうか)。

日露戦争以後、欧米が態度を変えた要因はもっと別にあるのではないでしょうか。

まず第一に、自称保守派が自慢する、日露戦争の勝利が植民地各国に与えた「勇気」があります。
支那、インドなどからの留学生は日本に殺到し、ベトナム、フィリピン、ビルマはもちろん、エジプト、イラク、トルコなども日露戦争に勇気づけられた国々です。
これ自体は誇るべきことではあります。
が、大英帝国の植民地支配を根底から揺るがす事態、という側面も持っていることは忘れるべきではないでしょう。
第一次大戦後にはインドのビハーリー・ボースとマヘンドラ・グプタの亡命が、日英間の外交問題にもなっています(ボースの長男は沖縄で「戦死」しているというのですから、長いオツキアイですし、インドの血をひく「英霊」の存在はもっと広く知られてもいいように思います)。
皮肉なことに、レーニンをはじめとするロシアの共産主義者や、イスラム教徒なども、日本に勇気づけられた勢力でした(日露戦争中、ロシア国内を混乱させるため、明石元二郎が反政府勢力を支援したことはよく知られています)。
これら植民地各国での独立の気運の高まりが、欧米列強に脅威として受け止められたことは当然ですし、それがドイツ・ウィルヘルム二世らによる黄禍論が広く受け入れられ浸透していく下準備をしたとも言えるのではないでしょうか。
ドイツ皇帝と日露戦争参照)

人種差別にもとづく国際的反日世論は、第一次大戦以前から大戦全期間~日英同盟の解消に至るまで、日英の離間に大いに利用されていたようです。
大戦中、日本は同盟の範囲内で十分な貢献(青島攻略、太平洋~インド洋制海権の確保、連合国艦艇護衛、掃海)をしていますし、一部は同盟条項の範囲を越えてまで対英協力を行っています(地中海への特務艦隊派遣がそれ。本来、日英同盟の効力範囲はインド洋以東)し、英国側もそれに対しては高い評価を下しています。
しかし、その日本に対する英国並びに連合各国の仕打ちはどうだったでしょうか?
開戦以前の米国排日移民法やオレンジ計画については今さら言うまでもないでしょう。
本書によれば、開戦後も、あまり一般に知られていない事件がいくつもあったといいます。
たとえば、英国の要請で北米西岸に派遣されていた巡洋艦浅間が海図未記載の暗礁に乗り上げ座礁したときには、日本が故意に事故を起こして艦隊派遣の口実とし、米国・メキシコを侵略しようとしている、と、米国は捏造報道をくりかえしたそうですし、
また、かねて日英通商航海条約への加入を拒否していたオーストラリアは、ついにフリーマントル陸上砲台から、防護巡洋艦矢矧に対して実弾砲撃を加えてくる始末だったとか(日本海軍が、オーストラリア~欧州間海上交通の安全保障を一手に引き受けていたにもかかわらず、です)。

この状況で、前述のボース亡命事件、それに先立つバンクーバーでのインド人移民上陸拒否、インド帰国後の大量粛清などを受け、日本の対英国民感情も悪化していきましたが……
にもかかわらず、英国は日英同盟の範囲を超えた、地中海への艦隊派遣、さらには陸軍の派遣へと要求をエスカレートさせていきます。
同盟堅持という外交判断からすれば、要請を蹴るべきではなかったでしょう。事実海軍は応じています。が、「国民感情」にそうした政治判断を理解させるのは至難のわざです(ポーツマス条約をめぐる日比谷焼き討ち事件はそれほど昔のことではありません)。
議員バッヂをつけていてさえ理解できない愚物は多数いたことでしょう。
実際、世論に配慮して秘密裏に行われた特務艦隊の地中海派遣は、マスゴミにすっぱ抜かれ、政局に利用されていくようです。
この上、陸軍派遣など世論が許さないという状況が、日本国内には現出しました。
その状況で、しかし、欧米各国がやったことといえば、これまた日本に対する利己的だ何だという誹謗中傷です。利己的というなら欧米各国こそ利己主義の権化でしょうし、そもそも日英同盟の効力範囲はくりかえしますがインド洋以東です。都合のいいときだけ信義だ情誼だ何だと言う資格があるほどの態度を、欧米各国は日本に対して示してきたのか?
ということで、アジア主義はさらに勢いを増していくようですが……
国内世論を一蹴してでも見え透いた正義正論を建前にして連合各国に恩を売る、というところまでは日本政府は踏み込まなかったようで……そもそも、対英協調路線の大隈、加藤が失脚したあとは、寺内正毅、原敬、と山縣有朋の息のかかった内閣が続きますし、その山縣自身がアジア主義に傾斜していたというのですから如何ともしがたいところです。
【読書】鈴木荘一「日本征服を狙ったアメリカの「オレンジ計画」と大正天皇」参照 )

こうしてすでに日英同盟が軋みつつあった第一次大戦中に勃発したのが、ロシア共産主義革命です。
帝国主義の打倒というデマゴギーを表看板に掲げる共産主義は植民地解放を餌に有色人種各国に浸透を図りますし、前述のロシア国内のイスラム教徒なども日本への期待をさらに強めていったようです。
日本をイスラムに改宗させ盟主にしよう、などという基地害沙汰を本気で主張していたとか。
共産主義もイスラム教も、他国の国境・主権を一切顧慮せず、むしろそれを踏み越えて、人類の普遍的価値(と彼ら自身が勝手に信じるもの)を強要することを正義と考える、すこぶる侵略的な性格を持っている点では共通しています。要するにそれらは一種の「グローバリズム」なのかもしれません。
それら敵性思想の徒輩が共に欧米植民地主義からの解放を掲げ、アジア主義の範囲をさらに大アジア主義へと拡張、これに大川周明など国内のアジア主義者が共鳴して……という非常に複雑かつ重大な状況が現出するに至ったのが、本書によれば、日英同盟の時代、第一次大戦の時代、大正時代、だったということになるようです。

そうして日本の脳内お花畑がアジア主義の理想に舞い上がっているあいだに、冷酷邪悪なソ連・共産主義者たちが、満州~支那方面に工作員を送りこみさまざまな謀略をくりひろげていたことは、今さら言うまでもないでしょう。
そして、コミンテルンの浸透を受けた支那の各勢力も、何せ節操のない連中ですから、共産党のみならず、孫文も、国民党も、グチャグチャになって内ゲバ・権力闘争に明け暮れていくことになります。
日英同盟の離間・解消に動いたのは、大戦中は敵国ドイツでしたが、大戦の敗北と共にドイツは脱落。大戦後はむしろソ連・支那・米国が日英離間工作の主体になっていき……ついにそれに成功するわけですね。

アジア主義と共産主義、欧米の人種差別の三つ巴の抗争は、本書一冊ではまだまだ足りないというほどに、深い闇を蔵しているようです。その闇に多少なりとも鋭い光を当てる本書は、捏造自虐史観はもちろん、偽装右翼自慢史観にも飽き足りない日本人にとっては、必読の一書といえるのではないでしょうか。

冒頭で述べた通り、人種差別と反日プロパガンダが、現在、日米同盟の離間策として活用されつづけている状況は、かつての日英同盟のときと本質的には変わっていません。
「愚者は体験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というのなら、
日英同盟を辛うじて維持し、第一次大戦の戦勝国になった歴史と、アジア主義に偽装した共産主義に毒されて敗戦への道をひた走った大東亜戦争の歴史の両方から、多くを学ばなければなりませんし、歴史の事実を隠蔽し、その「学習」を妨げようとする勢力に屈するわけにはいかないはずではないでしょうか。
「有事」の予感が肌で感じられる昨今、日米双方が、今度こそ敵と味方を間違えないようにする必要が、いよいよ高まっているように感じる今日この頃です。
日英同盟 同盟の選択と国家の盛衰 (角川ソフィア文庫)

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posted by 蘇芳 at 00:52|  L 第一次世界大戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする